成人T細胞白血病ウイルス(HTLV1)感染

 HTLV1は、わが国において推計で約82万~108万人が感染しています。ウイルスは縄文時代から日本列島に存在したとされ、感染者は世界的にも日本が多く、特に九州など西日本に目立ちます。感染力は極めて弱く、感染しても自覚症状はありません。ワクチンや特効薬がなく、一度感染すると体内から消えることはありません。感染者の約5%が、難治性の希少がんである成人T細胞白血病(ATL)を発症します。まれに神経難病で足が不自由になったり、排尿障害が出たりするHTLV1関連脊髄症(HAM)などの原因にもなります。このウイルスは母乳による母子感染が67割を占めています。
 母子感染を防ぐため、妊婦健診の標準的な検査項目に同ウイルス検査を追加し、公費負担で検査を受けられるようになっています。妊婦健診で感染が分かると、授乳方法を工夫する必要があります。①粉ミルクのみで育てる②母乳を生後3カ月程度にとどめる③一度凍結した母乳を与えるという3つの方法があります。母乳を与え続けた場合の感染率は1520%ですが、いずれかの対策で3%程度に下げることができます。検査体制が整い、診断される人が増えてきています。妊婦健診で年約2,000人、献血時の検査で年約1,500人、その他検査で、年1,5002,000人と少なくとも毎年、推計で約5,000人超が診断されています。
 献血時にウイルス検査が行われるようになり、輸血での感染の恐れはなくなりました。母子感染でも対策が進んできた現在、性感染防止が課題になってきています。性感染では主に精液を介して男性から女性にうつり、その後に母子感染する危険があります。感染予防は女性だけでなく、男性も取り組むべき問題です。

(2017年2月5日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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