改めて異次元の少子化対策に憶う

高度経済成長期からの性別役割分業の家族像が結婚の障壁となり、結果として少子化につながっています。賃金が上がらないのに男性1人で家計を支えるとなると、その負担は大きいものがあります。核家族化が進み、女性1人で家事・育児を担うのにも限界があります。女性がフルで働こうとしても、残業があったり、夫が家事をしなかったりすればハードルが上がります。実際、近年増えているのは妻がフルタイムではなく、パートの共働きです。保育所整備など、子育ての社会化はもちろんですが、男女問わずフルタイムで働きながら、家族を支えられるようにする必要があります。大切なことは、男性の働き方を家庭生活と両立できるものに変えることです。夫婦が共に稼ぎ、かつ世話する立場にもなれるようにする必要があります。
日本では出生数が急速に減少し、年間80万人を下回る状況です。政府は、異次元の少子化対策を掲げ、具体化に向けた検討を進めています。日本は1990年代から少子化対策を進めてきましたが、子育て支援充実が中心でした。今回の少子化対策のたたき台も子育て支援がほとんどです。結婚せず、子どもを持てない人の支援にはなりません。
結婚するかどうか個人の選択なので、国レベルの介入はできません。しかし、多くの先進国で安定した職に就いている人の方が結婚したり、子どもを持ったりしやすいとされています。安定した雇用を増やし、若者の経済状況を良くすることは大切です。単に出生率の上昇を唱えるのではなくて、人々の希望を叶えやすい社会にすることが大切です。その手段の一つが働き方の見直しです。働き方は人の幸福に大きく関わります。夫婦が共に働き、共にケアを担う平等主義的家族が実現し、その嬉しい副産物として、結果的に出生率が上がるのがベストです。

(2023年6月1日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

カテゴリー: what's new   パーマリンク

コメントは受け付けていません。