新型出生前診断(NIPT)の現状と問題点―Ⅸ

今後の課題
欧米では3つの染色体疾患に加えて性染色体疾患、微小欠失症候群などへの適応拡大が既に行われています。日本においても適応拡大に関する議論を早急に始めるべきです。しかし、この適応拡大に関しては、NIPT実施施設の拡大、臨床研究からの逸脱などの動きを念頭に、慎重な対応が望まれます。
近年、日本国内においても日本医学会認定施設以外でNIPT実施が目立つようになってきています。日本産科婦人科学会員が認定施設外でNIPTを実施した場合は学会として対応できますが、学会員ではない場合は規制できません。認可外施設でのNIPTは、基本的に遺伝カウンセリングの実施は行われず、仮に結果陽性であった場合は、近隣の遺伝診療部門への受診を勧める程度のフォローしか行われていません。精度の高い胎児染色体検査を、短時間で手軽に受けられるといった側面が強調され、NIPT検査希望者が増加しています。
NIPTは、出生前遺伝学的検査の本来の目的である、児の健康の向上や適切な療育環境を提供する場としてではなく、ダウン症の有無で赤ちゃんを産む、産まないの選択に使われているのは残念です。勿論、クライエント自身が出された結論は最大限尊重しなければなりませんが、その判断の根拠の中に、生まれてきた子の人生や健康状態、家族への負担や染色体疾患に対する誤解や情報欠如があってはならないと思われます。産む選択も一緒に考慮できるような情報、例えばダウン症当事者を正しく理解できるような情報を提示することが大切です。

(母子保健 2018年10月号)
(吉村 やすのり)

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