減数手術での提訴

 排卵誘発剤による不妊治療で5胎ができ、減数手術を複数回受けた30代女性と夫が、全例を流産し、1例も出産できなかったとして、大阪地裁に訴訟を起こしました。5日の第1回口頭弁論では、病院側は請求棄却を求めました。近年、体外受精などの生殖補助医療による多胎は、日本産科婦人科学会の会告により、移植胚数を原則1個とすることになって以来減少し、減数手術をすることは減ってきております。一方、排卵誘発剤投与後の自然妊娠では、多胎を減らす方法は考えられていますが、完全に多胎を防止することはできず、現在でも減数手術が実施されています。
 減数手術を受ける際には、クライエント夫婦は希望どおりに胎児を減数できずに全ての胎児を流産する場合があることを理解した上で、減数手術を受けるように、医療者はインフォームドコンセントを得た後に実施することが必要となっています。今回のケースのように、減数手術で全ての胎児を失うことは起こりうることです。
 従来より、この減数手術は、胎児を母体外に出してしまう母体保護法の規制対象とはなっていません。15年以上前に減数手術について、厚生科学審議会の生殖補助医療部会で検討されましたが、法制化はなされておりません。減数手術をしなくてよいような医学的配慮が求められます。減数手術は原則行われるべきではありませんが、3胎以上の超多胎で止むを得ず実施する場合には、十分な説明と同意が必要になります。こうした裁判を契機に、わが国でも減数手術に関する法規制やガイドラインを作製すべきと考えられます。

(2016年9月6日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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