生殖医療管見―Ⅱ

リスクの評価
 体外受精で一般的にいわれているのは、先天奇形も染色体異常も、発生率は一般と変わらないというデータが多いということです。顕微授精では、おそらく変わらないが、あるいは異常がやや高くなるのではないかといわれています。顕微授精を受ける夫婦では、なんらかの染色体異常があって不妊になっている場合があります。ですから、子どもにも染色体異常が多くなる背景があります。奇形については、消化菅の閉塞や尿道下裂などは多いのですが、その他では明らかに高くなるとは考えられていません。
 また、近年注目されている観点として、エピジェネティック異常があります。エピジェネティクスとは、DNA配列の修飾(DNA自体は変化せず、DNAに後付される)を介しておこる遺伝子発現の変化のことですが、とりわけ配偶子と初期発生において重要な過程があります。それは、配偶子においてエピジェネティックな修飾はリセットされ、受精卵では新たにDNA修飾が刷り込まれるということです。体外受精においては、エピジェネティック異常に起因する疾患の率が高いという報告があります。ただし最近では、危惧されるほど顕著ではないという報告もあり、慎重に見極めていく必要があります。こうしたことについては長い眼でみることが大切で、まだわからないことが多いというべきでしょう。体外受精や顕微授精で生まれた子どもが大人になり、子を産むことになったときにどうか。これはこれからの問題です。子どもにとって生まれた後の人生が大切です。
 長期予後は、生殖医療にたずさわる者が知らなくてはならないことであり、もっとも大切なことです。エドワーズ博士の開発した体外受精法は、素晴らしい技術であり、患者に大きな恩恵をもたらしています。同時に、生殖医療は妊娠することが最終目的ではなく、子どもがどのように育ち、成熟した大人になっていくのかが大切です。妊娠して子どもを生めば終わりなのではなく、子どもの長期予後を知ることに、生殖医療の到達点があるはずです。

(吉村 やすのり)

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