生殖医療管見―Ⅳ

差違と差別
 われわれ生殖医療に携わる医師は、これまでたくさんの不妊に悩む人々を診てきました。元来は病気もなく妊娠可能であった女性も、加齢に伴う卵子の老化により社会的不妊になってしまいます。さらに加齢とともに子宮筋腫、高血圧、糖尿病などの合併症のリスクも増してきます。もう少し早く子どもを持つことを考えてくれていたならば、もう少し早く妊娠していてくれたならと思うことはしばしばでした。だからこそ、若い人々がもし将来子どもを持ちたいと考えるなら、特に女性には生殖年齢の適齢期があることを知っていてほしいのです。
 次世代の産出と少子化問題との関連で強調すべきことは、男女の生物学的な差異の論議を封じてはならないことです。これはあくまでも男女のからだの仕組みの差異を示しており、差別を意味するものではありません。生命の維持や生殖に関する生物学的な仕組みは、種を超えて共通であることは冷厳な事実であり、再認識することが大切となります。ヒトにおいては動物と異なり、予防医学の進歩により平均寿命の延長がみられますが、生殖補助医療の助けを借りても生殖年齢の延長を期待することはできません。男女の差異を十分に理解した上で、個々の自律的な選択が尊重されるべきであることには言うまでもないことです。男女の差異と差別を混同し、男女平等の概念が論じられてはなりません。こうした教育に担わるのが産婦人科医の重要な責務と考えます。

(吉村 やすのり)

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