社会保障制度の未来

 暮らしや老後を守るわが国の社会保障制度が、このままではもたないことを皆が知っています。止めどない高齢化社会にあって医療や介護、年金にかかるお金が膨張し、社会保障は継続できなくなっています。現在の社会保障給付費は約120兆円ですが、2030年には170兆円にまで達すると試算されています。影響が大きいのは医療費で、とりわけ75歳以上の後期高齢者医療費は約1.5倍の21兆円に達するとみられています。
 今や、社会保障本来の受益と負担の根幹が崩れ、現役世代である働く世代に過剰な負担がきています。企業の健康保険組合から高齢者医療費に拠出する額も増えており、2007年度に1518あった健保組合は維持することが困難となり、100以上が消えています。経団連によると、20132014年度の賃上げ効果の46%分は、社会保険料として吸い上げられています。公費で賄う部分は消費税で国民全体が負担すべきであり、消費増税を実施することを考慮しなければなりません。
 現行の社会保障制度で集めた保険料を、国が積み立てているわけではありません。現役世代が払った保険料や税を、高齢者に割り当てることによって成り立っています。社会保障債務の返済は現役世代や次世代が負うことになります。今後、借金を返す現役世代はしぼみ続けるのに、払うべきは債務は増え続けます。将来を担う子どもたちのため、国民一人ひとりが痛みを共有しなければなりません。医療費であれば、本人負担の割合を増やすなど、社会保障全体で応益者負担を強める必要があります。低所得者や弱者は公費でサポートすることも必要ですが、資産を持つ高齢者には、それに見合った分の保険料などを納めてもらわなければなりません。団塊の世代が後期高齢者になる2025年までに、社会保障制度改革の政治的決断が望まれます。

(2016年12月19日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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