筋ジストロフィーの新しい治療の開発

筋ジストロフィーは、筋肉を形作るたんぱく質の設計図となる遺伝子に変異が起きて、筋肉を維持できなくなる病気です。人の体を動かす骨格筋や胃腸などの内臓を動かす平滑筋など様々な筋肉に影響が表れます。異常のある遺伝子の場所によって、いくつかの種類に分けられます。最も症状が重く、患者数も多いとされているのが、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)です。筋肉の細胞の中にあるジストロフィンと呼ぶたんぱく質が作れなくなります。小児期の男児が発症することが多く、5,000人に1人の割合で罹患するとされています。
全身の筋肉が弱る進行性の難病である筋ジストロフィーの治療が進化しています。原因となる遺伝子などに直接働きかけ、症状を軽くしたり、進みにくくしたりすることを目指す新薬が登場しています。これまではステロイド治療薬で筋肉を保護するなど、病と共存するための対症療法がほとんどでした。患者や家族の間で新たなアプローチになると期待が高まっています。
そうした状況の中で登場した新薬が、日本新薬と国立精神・神経医療研究センターが開発したビルテプソ(一般名:ビルトラセン)です。2020年5月に厚生労働省がDMDの治療薬として保険承認しています。画期的といわれるのは、原因となる遺伝子に直接作用し、ジストロフォンを作り出せるようにするからです。いわゆるエクソンスキップ薬です。
遺伝子はエクソンという塊が1列に並んでできています。体に必要なたんぱく質は、このエクソンの並びを読み取って作られます。DMDの患者では、その塊のどこかが欠損していたり、変異していたりするため、正しくたんぱく質が作れません。エクソンスキップとは、薬を使って、欠けている部分を意図的に使われないようにすることで、ある程度機能すると期待できるたんぱく質を作ることができます。ビルテプソの場合は、53番目のエクソンを使わずに、ジストロフィンを作ります。
ビルテプソは患者が週に1回、1時間程度の点滴を受けます。しかし、DMDの場合、欠けている部分は患者によって異なります。進行具合などによっても適用は異なります。ビルテプソの対象は、DMDの中でも一部にとどまっています。現在、別の部分の欠損にも対応できる核酸医薬の開発を進めています。核酸医薬は、原因遺伝子に作用する点で従来の薬とは大きく異なりますが、まだ根治はできません。根治治療には、遺伝子の異常を完全に修復する薬や手法が必要となります。

(2021年4月5日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

カテゴリー: what's new   パーマリンク

コメントは受け付けていません。