米国での平日労働時間の短縮策

OECDのデータによれば、主な国の年間平均労働時間のうち、1980年代は日本が最長でした。その後、日本はパートタイムで働く人が増えたことなどから、平均では労働時間が減り、2004年以降は米国がトップになっています。米国でも金融大手など一部の企業の中では、長時間労働を美徳と考える風潮があり、米国人の働き過ぎの状況が問題視されるようになってきています。
コロナ感染拡大後は状況がさらに変化してきています。人手不足が深刻化し、転職する人が急増しています。離職者の数は過去最多を更新して、大退職時代とも呼ばれ、売り手有利な状況が続いています。企業にとっては、人材確保の面から休暇制度の充実が経営課題となっています。また、OECDによると、うつ状態などにある人の割合は、米国ではコロナ前の6.6%からコロナ後の2020年には23.5%に急増しています。コロナ禍でのストレスなどが理由とされ、特に若い世代や低所得者層の増加が際立っています。
健康の観点から、休みやすい環境を整備するため、州政府が病気で休んでも有給とするよう企業に義務付ける動きも相次いでいます。米国では、企業活動に政府の介入を嫌う考えが強く、連邦レベルで有給休暇を定めた制度がありません。一部の企業が福利厚生の一環として、病気の際に有給で休める制度を導入しています。しかし、そうした制度を持たない企業で休めば無給となってしまいます。そのため、特に中・低所得者が体調不良でも無理して働き、感染拡大を招くとの指摘もあります。
有給の病気休暇の取得が1時間増えると、死亡率が0.1~0.2%下落しするという研究結果もあります。体調が悪い時に休めることに加え、医療機関を受診できるかが死亡率の違いとなっている可能性があります。企業側は有給休暇の義務化をコストアップと捉えがちですが、体調不良のまま働いても生産性は低く、感染拡大の恐れもあります。無理に働かせる方がコストがかかることになってしまいます。
米国では、深刻な人手不足が続く中、好待遇で人材を確保したい企業の思惑に加え、新型コロナウイルス流行をきっかけに強まっている労働者の健康管理を重視する風潮が後押ししています。

 

(2022年9月11日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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