精子提供による人工授精を考える―Ⅰ

わが国では過去70年以上にわたって大きなトラブルもなく精子提供による人工授精(artificial insemination with donor’s semen :AID)が施行され、正確な数は不明であるが、おそらく2万人前後の子どもが生まれ育ってきた。これまでは精子提供に関する匿名性の原則により、子どもの出自を知る権利は行使できない状況にあった。しかし、家族において子の出生に関する秘密の存在によって、親子の緊張関係や反対に親子関係の希薄性が生じ、子は親が何かを隠していることに気付き、親子の信頼関係が成立しなくなる危険性があることが指摘されるようになってきている。
子どもにとっては、出自を知る権利と同様に知らされない権利も必要かもしれない。しかしながら、今や個人の遺伝情報も簡単に検索できる時代になっており、子どもが親子関係に疑問をもった時、自分でDNA鑑定を行うかもしれない。精子や卵子の提供を受けて子をもうけたクライエント夫婦が、実子という戸籍上の記載を隠れみのとして子どもに真実を告げないで済む時代はではなくなっている。夫婦で子どもを持ちたいと真摯に話し合い、配偶子の提供による生殖補助医療を受けることを決断し、子どもを産み愛情を込めて育てているとするならば、真実告知をすべきであるとの考えも理にかなっている。

(吉村 やすのり)

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