組織幹細胞による脳梗塞治療

 血管や神経に育つ幹細胞を使って、脳梗塞の治療を試みる医師主導の臨床試験が始まっています。患者から採取した幹細胞を培養し、移植することで、神経再生を促します。脳梗塞は寝たきりや言語障害など重い後遺症につながりやすいため、症状を改善できれば、介護の負担を大幅に減らすことが可能になります。患者から骨髄液を採取し、単核球という細胞を分離し、増殖させて点滴で静脈に投与します。
 治験では重傷の患者12人に対して幹細胞治療を実施しました。治験前は重傷の分類でしたが、治療開始から1カ月後には8割弱の患者が中程度の症状に改善したとしています。陽電子放射断層撮影装置(PET)で調べると、脳の酸素の消費量が治療開始1カ月後よりも6カ月経った段階の方が増えていました。
 組織幹細胞からは、特定の組織や臓器しか作れません。iPS細胞に比べると大量に培養することも難しく、十分な細胞を得られないといった欠点はありますが、患者自身の体内に存在するため、安全性が高く、倫理的な問題もありません。国の安全審査手続きも幹細胞の方がハードルは低くなっています。iPS細胞からは、様々な組織や臓器の細胞を作り出すことができ、大量培養しやすい利点もありますが、細胞ががんになるリスクがあります。ES細胞はがん化のリスクはありませんが、受精卵を壊して作るため倫理的な問題が残ります。組織幹細胞による治療にも大いに実施されるべきです。

(2016年5月30日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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