育児休業について憶う

 政府は、3年前に女性活躍を成長戦略の中核に位置付け、「3年間だっこし放題」という表現で、産業界に3年間の女性の育児休業を求めました。しかし、反対意見の多く出され、産業界への要請内容は「3年間、男女が休業又は短時間勤務すること」となり、男性と短時間勤務が加わる形に方向転換されました。最近、待機児童問題の解消に手を焼いている地域では、現行では1年の法定育児休業を2年に延長することを求める声が上がっています。確かに、保育所に入所できないことが理由で退職せざるを得ない女性がいる場合には、2年まで延長する必要はあるかもしれません。育児休業の期間が延長されれば、親が保育所に頼らずに子どもの世話をできる期間が延び、待機児童は減るかもしれません。 しかし、女性の活躍やキャリア形成の観点からは、育児休業の延長には慎重であるべきです。妊娠・出産による退職が当たり前であったわが国でも、育児休業から復帰して仕事を継続する女性が急速に増えています。政府の統計では仕事の継続率が初めて5割を超えています。大手企業の正社員に限れば、既にほとんどの女性が制度的には、出産後に復帰するようになっています。育児休業が長期間に及べば、妊娠前のような完全な職場復帰が難しくなることを考慮しなければなりません。ブランクが長くなったり、勤務時間が短い期間が長期化したりすると、より責任がある仕事を任せづらくなります。これが、急増しているワーキングマザーが必ずしもキャリアアップができていない原因の一つになっています。
 女性医師の場合、2人以上の子どもを持てば現在の医療体制では常勤医を続けることは困難です。産休や育休により3年以上の休業は、日進月歩の医療現場への完全復帰は技術的にも難しいと言わざるを得ません。企業では、すでに女性が育児休業から復帰する期間を早めたり、フルタイム勤務に早く復帰できたりするような工夫を始めています。短時間勤務からフルタイムに早期に復帰しやすいようにしています。いずれも早期に普通の働き方に復帰することを女性に促すための取り組みです。そのためには仕事を維持しつつ、安心・安全な子育てができる仕組みを提供できることが前提条件です。育児休業の延長に対しては、多様性も考慮した上で慎重に対応すべきです。

(吉村 やすのり)

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