膵臓がんの治療成績の向上を目指して

食道がんや白血病など、さまざまながんの死亡率が下がっていく中で、膵がんの治療成績は、高止まりしています。高齢男性に多く、肥満や喫煙、大量飲酒によって発症リスクが増すとされています。がんが小さいうちは自覚症状がほとんどなく、早期発見が困難です。見つかった時には症状が進んでいる場合も多く、切除可能と判断されるのは2割ほどにとどまります。予後が悪く、医療機関にもよりますが、5年生存率は10~20%です。

 

代表的な症状は黄疸ですが、症状や出た時は進行していることが多く、手術不可能なこともあります。腹痛や背中の痛み、体重減少なども要注意です。糖尿病が急に発症したり悪化したりした場合も、膵がんによる膵臓の働きの低下が疑われます。検査方法は、血中マーカーを検出する血液検査や腹部超音波検査で調べ、画像診断へと進みます。最終的には針で組織や細胞を採取し、病理検査で確定します。
治療法の改善もなかなか進みませんでしたが、最近になって手術前に抗がん剤を投与する方法で成績が改善することがわかってきました。東北大学らの臨床試験によれば、術前化学療法を受けた患者の平均生存期間は、手術先行とした患者に比べ約10カ月長い36.72カ月でした。2年生存率も10ポイント以上改善し、63.7%となり、術前の治療によって、死亡リスクは28%減少したことが分かりました。摘出したがんの組織を調べると、術前化学療法を実施した場合は、実際にリンパ節転移が減って減少していました。手術後の肝臓への転移再発も少なかったとされています。
膵がん診療ガイドラインでは、現在切除可能な膵がんは原則として全て術前化学療法をしています。膵がんは、画像診断で見えないような微小転移が隠れていることも多く、気づかないまま手術しても再発してしまいます。小さいうちに抗がん剤でたたいてから手術し、治療成績を高めることが期待されています。

(2020年12月7日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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