遺伝子改変マウス

 ヒトの病気の原因を探って治療法を開発するのに欠かせないのが実験動物のマウスです。遺伝子工学の進歩で、ヒトの病気に似た状態を再現したマウスが作れるようになってきています。マウスは体が小さく扱いやすいうえ、体の臓器の役割や遺伝子がヒトと共通することが多いため、ヒトではできない実験に使われ、病気の解明や治療法の開発に重要な役割を果たしてきています。実験には遺伝子を改変して患者の状態を再現したマウスが使われることが多くなってきています。
 ヒトの病気を探るために、特定の遺伝子を壊したノックアウトマウスや、特定の遺伝子を入れ替えたノックインマウスは、1990年ごろから多数作られてきましたが、作製に手間がかかりました。あらゆる組織の細胞になりうる胚性幹細胞(ES細胞)に、ノックインの場合は入れ替えたいDNA配列を、ノックアウトの場合は遺伝子の配列は似ているが働きが壊れているDNA配列を入れます。遺伝子改変できたES細胞を選んで受精卵に入れると、遺伝子改変された細胞と正常な細胞が交じったキメラマウスができます。それを正常マウスと交配して対の遺伝子の一方のみが改変されたヘテロマウスをつくり、さらに交配を重ねることで、ようやく目的の遺伝子が改変されたマウスがうまれます。
 しかし、最近、ゲノム編集と呼ばれる技術で遺伝子改変が効率よくできるようになり、新たな実験動物作りが加速しています。ノックアウトマウス作りには従来は約2年が必要で、費用も約200万円かかりました。しかし、ゲノム編集なら、期間を2、3カ月に短縮、費用も20万円と約10分の1ですみます。ゲノム編集では複数の遺伝子の同時改変も可能です。

(2017年3月5日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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