麻疹の流行

 1950年代、麻疹は誰もが一度はかかる病気でした。大半は1週間ほど回復しますが、約3割で肺炎などの合併症が起き、年間数千人が死亡していました。しかし、1966年にワクチン接種が始まり、1978年に公費での接種が認められると、学校などでの集団接種が普及し、患者は目に見えて減っていきました。しかし、1回接種であったために免疫力が低下し、感染する機会も増えてきました。そのため、2006年から小学校入学前に2回目のワクチン接種をして、免疫を増強するようになりました。
 しかしそれ以前に小学校に入った人は、1回しか接種していないため、2007年、この世代の1020代の若者の間で麻疹が大流行し、大学などが相次いで休校する騒ぎになりました。その後2008年から5年間、19904月以降に生まれた人を対象に、中学3年か高校3年の時に2回目の接種を受けられる措置が講じられています。しかし、麻疹患者が激減してから生まれ、ワクチンを1回しか受ける機会がなかったか、あるいは2回目の追加接種を受けなかった2030代を中心に、感染が広がっています。
 現在、麻疹感染がまた急増しています。今年に入ってから7日までに報告された患者は82人に達し、昨年の2倍を超えています。麻疹は妊娠中の女性が感染すると、早産や死産などを起こすことがあります。日本産科婦人科学会は、妊娠中の人やその家族は感染者が多く発生した場所には行かないよう呼びかけています。現在、ワクチン接種は義務ではなく、国民への情報提供によって勧奨するものになっています。集団接種ではなく、保護者が子どもを病院に連れて行って受けさせるのが中心となっています。ワクチンは個人の選択で、保護者の判断で受けないこともできます。

 

(2016年9月16日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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