AYA世代のがん患者

競泳女子のエースで白血病を公表した選手に対し、社会から支援の声が上がっています。彼女のような10~30代の若者はAYA世代と呼ばれています。AYA世代は、思春期(Adolescent)と若年成人(Young Adult)を組み合わせた言葉で、15~39歳を指します。国立がん研究センターが2018年に行った調査によれば、この世代の年間の発症者数は推計で約2万1,400人にも達します。がん患者全体に占める割合は約2%と少ないのですが、白血病や脳腫瘍、子宮頸がん、乳がんなど、がんの種類は多岐にわたります。
近年、手術療法、放射線療法、がん化学療法、骨髄移植法などの進歩により、AYA世代のがん患者のその完全寛解率は著しく向上してきています。しかし一方で治療により卵巣機能の廃絶に追い込まれることが多く、卵巣組織を温存して将来の妊孕能を確保しておく気運が高まってきています。がん治療と生殖医療の進歩により、妊孕性温存できるクライエントが増加してきています。
若年がん患者においても、原則としてがん治療を最優先すべきです。治療が終了し、がん治療医より妊娠許可が出たとしても、がん治療による卵巣機能不全によって挙児を得ることが難しい可能性があります。また原疾患の状況によっては、生殖医療を受けている間も再発や再燃のリスクがあり、がんに対する恐怖が完全に消え去るわけではありません。若年女性のがん患者は、がんと告知された後、治療開始前の限られた時間内に妊孕性温存に関する判断をしなければなりません。がん治療によって妊孕性が消失する可能性を考慮し、妊孕性温存のための治療手段を受けるか否かを自らが決定することになります。がん告知による不安や抑うつ状態の中で、妊孕性を失う可能性についての説明は、患者にとってはかなりの心的ストレスになることが予想されます。
原疾患の治療開始までの時間が限られている中で、患者や家族に対していかに正確な情報を伝えるか、がん治療医のみならず、生殖医療専門医といかに連携をとるかが重要となります。白血病の治療が生殖機能に影響を与える可能性を、治療開始前にしっかりと説明しておくことが大切です。そのためには医師、看護師、臨床心理士、薬剤師、ソーシャルワーカーなどのヘルスケアプロバイダーからなる医療チ-ムの結成が必要となります。がん患者の妊孕性温存に関しては、治療開始前に卵子や卵巣組織を凍結保存する生殖医療専門医と、原疾患を治療する腫瘍専門医による十分な情報交換と診療協力体制の確立、さらに臨床心理士による患者とその家族に対する十分なカウンセリングが不可欠です。

(2019年2月16日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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