CO2から糖の効率生産

CO2から糖を作る技術の研究が進んでいます。糖は炭素原子、酸素原子、水素原子が連なってできています。炭素原子と酸素原子でできているCO2から糖を作る反応は自然界にもあり、植物の光合成が知られています。新開発の触媒で、CO2由来の糖を効率よく作る技術が開発されています。水に溶かしたCO2に電気を流すなどして、炭素原子、酸素原子、水素原子からできている単純な分子のホルムアルデヒドをまず作ります。触媒を使ってホルムアルデヒドから糖を化学合成します。光合成の数百倍以上の速度で糖を生産でき、水の使用量は農業の数百分の1で済みます。
従来の触媒は水酸化カルシウムで、糖を作る反応にアルカリ性水溶液を使っていました。できた糖が液中の水酸化物イオンに分解されるほか、化学反応が進むと水溶液の性質が変わって、反応が止まる課題がありました。効率を上げられず、生産コストが農業で作る糖の数十倍以上となり、実用化が困難でした。今回、中性の水溶液で化学反応を起こすタングステン酸ナトリウムを触媒に採用しました。実用化の障壁だった糖の分解や化学反応の中断を防ぎ、効率の向上と生産コスト低減に道が開けました。
触媒や酵素で化学反応を起こしてCO2から糖を作る研究は海外でも盛んになっています。米航空宇宙局などの支援を受ける米カリフォルニア大学バークレー校も、1分子に3~6個の炭素原子を含む糖をホルムアルデヒドなどから作っています。中国科学院などは、複数の酵素を使ってブドウ糖や果糖を合成する研究に取り組んでいます。
将来的には砂糖などの食用糖やたんぱく源となり得る培養肉の原料を生産できる可能性があります。脱炭素に役立つ技術として、2030年代前半以降に実用化を目指しています。

 

(2024年2月2日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

カテゴリー: what's new   パーマリンク

コメントは受け付けていません。