ES細胞への関心の高まり

ES細胞は1981年、マウスでつくられ、1998年に米ウィスコンシン大学のチームが人でも成功しました。神経や心臓などの細胞に変えて移植すれば、病気や事故で失った機能を取り戻せる可能性があり、臨床応用に期待が集まりました。日本でも京都大学が2003年にヒトのES細胞を作っています。しかし、ES細胞には、当初から倫理的な問題が大きな壁となりました。iPS細胞が皮膚や血液からつくられるのに対し、ES細胞は受精卵を廃棄してしまうことになります。胚から人に育つことができる一部の細胞を取り出して使うため、政府は、人の尊厳という基本的価値を守るために受精卵を特に尊重されるべき存在と位置づけ、2001年にできた国の指針では、ES細胞の使用を基礎研究に限っています。
さらに他人の受精卵を使うES細胞は、移植すると拒絶反応が起こるため、臨床応用するためには、免疫抑制剤を使う必要があります。これに対し、患者の細胞からつくるiPS細胞は拒絶反応の心配がないことから、わが国ではもっぱらiPS細胞を使った研究がなされるようになりました。しかし、iPS細胞を臨床応用する場合、コストと時間を要することが最大の難点であり、備蓄しておいた他人のiPS細胞を使う流れになってきており、拒絶反応の有無はES細胞の欠点ではなくなってきました。
また人為的に遺伝子を入れるiPS細胞は、がん化のリスクを抱えています。ES細胞にはがん化のリスクは無く、品質も安定しているといった長所もあります。日本ではiPS細胞の研究が先行していますが、世界に目を向けると、9年早く登場したES細胞の方が、研究の蓄積があります。国立成育医療センターは、ES細胞を使った治験を計画しています。ES細胞から肝臓の細胞をつくり、生まれつき肝臓に障害がある赤ちゃんに移植します。遅れていたES細胞の臨床応用が、日本でも本格化することになります。

(2018年6月22日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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