iPS再生医療の研究の戦略の修正

iPS細胞を使う再生医療で、理化学研究所が世界初の移植をしてから約7年が経過しました。iPS細胞を使う目の再生医療では、2014年に理研が実施したのが初移植でした。その後滲出型加齢黄斑変性という病気を対象に計5人に移植しています。最初の1人は自家移植ですが残りは他家移植をしています。自家移植の場合、1人あたり1億円規模の費用がかかります。他人の細胞をもとに、あらかじめiPS細胞を作って保管しておけば、コストを大幅に下げられます。実用化を考えると、他家移植などによるコスト削減が求められます。
国内では、他の様々な臓器でも再生医療の臨床研究や臨床試験(治験)が進んでいます。2007年にヒトiPS細胞が作られて14年が経過し、パーキンソン病、重症心不全、脊椎損傷などiPS細胞を使用する再生医療研究が開始されています。先行してきた目の再生医療の研究では、安全性の確認から効果を確認する次の段階に入っています。
山中先生が2012年にノーベル生理学賞を受賞したのを機に、国内の再生医療の研究は大きく動き出しました。日本政府は2013年、再生医療などiPS細胞の研究に10年間で1,100億円の巨額投資を決め、その結果、研究者や論文は増えました。しかし、臨床研究が開始され7年が経過した今、未だ明らかな臨床的有用性が示されているとは言えない状況です。
世界に目を向けると、iPS細胞を重視する政策の課題や弊害も見えてきています。胚性幹細胞(ES細胞)など他の幹細胞研究の支援が手薄になっています。両者は技術に共通部分が多く、ともに研究を推進すれば相乗効果が期待できるという意見もあります。米国などは、2010年代半ばに再生医療の研究予算を減らし、遺伝子治療や細胞医療へ振り向けています。国際的には遺伝子組み換えを組み合わせて、細胞を使った治療法の可能性を探る研究が進んでいます。わが国の再生医療研究においても、戦略の修正が望まれる時期に来ているのではないでしょうか。

(2021年4月9日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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