iPS創薬の実現に向けて

京都大学iPS細胞研究所のグループは、患者のiPS細胞を使って治療薬を探すiPS創薬で、治療効果を検証する第2段階の臨床試験を始めました。全身の筋肉が徐々に衰えるALS(筋萎縮性側索硬化症)患者に白血病の既存薬を投与します。既存薬の転用で難病治療につなげられるか、iPS創薬の可能性を探る試金石となります。
ALSは、運動神経の障害で筋肉が徐々に衰える難病です。日本に約9千人の患者がいると言われ、個人差があるものの、発症から数年で人工呼吸器を付けたり亡くなったりします。進行を遅らせる薬はありますが、根本的な治療法はありません。患者の皮膚から作ったiPS細胞で、病気の細胞を再現し、この細胞に1千個以上の化合物を加えて効果のありそうなものを探し、慢性骨髄性白血病薬であるホスチニブをALSの治療薬候補としました。
2019~2021年に12人の患者へ投与する第1段階の医師主導治験を実施し、安全性を確認するとともに、一部の患者では病気の進行を止める効果を確認しています。国内では慶應義塾大学も、ALSを対象に既存薬の中から候補薬を見つけています。
iPS創薬は、再生医療と並ぶiPS細胞の応用の柱です。安全性が確認された既存薬を転用でき、創薬にかかる費用や時間を節約できます。創薬が進まなかった難病などの治療薬の探索に役立つと期待を集めています。

(2022年4月16日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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