がんワクチンによる個別化治療

がんワクチンは、がん細胞の目印となるたんぱく質を患者の体内で作って、がんに対する患者の免疫を鍛えます。ウイルスなどの目印を投与する感染症向けの予防ワクチンに仕組みが似ているため、ワクチンと言われますが、治療薬の一種です。がんワクチンを患者ごとに作り、治療効果を高める技術の実用化が迫っています。米スタートアップのグリットストーン・バイオは、抗がん剤が効きにくい大腸がんの患者の半数で、生存期間が3倍に延びたことを臨床試験で確認しています。
グリットストーンは、それぞれの患者のがん細胞に合ったがんワクチンを作っています。患者から採取したがん細胞の遺伝情報を専用機器で読み取り、AIでデータ分析しました。がん細胞から出る特有のたんぱく質として知られ、患者ごとに異なるネオアンチゲン(新生抗原)の構造を高精度で推定しています。ネオアンチゲンの設計図にあたる遺伝情報を、新型コロナウイルス感染症のワクチンでも使われたメッセンジャーRN(mRNA)などを使って体内に送り込みます。
がんワクチンは投与後に体の細胞に入ると、遺伝情報をもとにネオアンチゲンを作ります。ネオアンチゲンを覚えた免疫細胞が活性化して、がんを攻撃します。13人のうち、6人でがんが出すDNAの量が減っています。
様々な種類のがんでがんワクチンの治験が進んでいます。がんワクチンの開発では遺伝情報を分析するAIが重要な役割を果たすため、デジタル技術に強い企業も参入しています。

 

患者ごとに作る新しいがんワクチンは、一人ひとりのがん細胞の遺伝情報などを専用機器で読み取った上で、それぞれに対応した薬を個別に作ります。同じ薬を大量生産する従来の治療薬と異なり、手間やコストがかかるのが課題となります。

(2023年5月12日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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