さまざまな寿命

わが国の平均寿命は、2016年の厚生労働省のデータによれば男性80.98歳、女性で87.14歳で年々伸びており、世界でも有数の長寿国です。一方、健康上の理由で日常生活が制限されることのない健康寿命は、男性72.1歳、女性74.8歳です。年々平均寿命が延びても、健康寿命とは10年前後の乖離があります。特に、女性においては、健康寿命は平均寿命より12.4年短くなっており、介護サービス受給者の割合も多くなっています。人生100年時代に備えるには、平均健康寿命を延ばすことが何よりも大切になります。
長くなった高齢期に充実した人生を送るには、所得や生きがいがなければなりません。そのためには職業寿命をいかに伸ばすかを考えなくてはなりません。団塊の世代が後期高齢者となる2025年までには、少なくとも70歳までは働くことを前提に変える必要があります。そのうえで人生100年時代を見据えて、働く意思と仕事能力のある限り、その能力を発揮し続けられる生涯現役社会を目指さなければなりません。
人生100年時代の今、いかにして健康を維持できるかが老後生活の質を高める上で大切となってきます。日本の金融資産の6割は60歳以上の人が保有しており、この金融資産を運用して収益を得ることも高齢期の生活を豊かにするための有効な手段になりえます。しかし、平均寿命が伸びるほど生活費も必要となります。さらに健康寿命が伸びなければ、医療や介護にかかる出費も増えることになります。人生100年を享受し得る豊かな時代には、個人の資産寿命を延ばすことも重要になってきます。
老後の不安の要因は、お金、健康、認知症の順です。これらの不安を解消するには、健康寿命、資産寿命に加えて、人や社会とのつながりを持ち続け、いつまでも貢献の意識を感じられる貢献寿命を考えることが大切になってきます。そして、この3つの寿命を延ばす現実的な認識の向上と具体的な計画、行動が重要になります。老後を変えるためには、社会インフラ、生活者、企業の連携なども求められます。社会インフラに合わせた教育・雇用や、医療・介護の仕組みを変えなければなりません。
人生80年時代の政府の役割は、個人にさまざまなサービスを提供することだったかもしれません。しかし、人生100年時代には、政府の役割は一人ひとりが自立的にいつまでも生き生きと活動できるような基盤を構築することです。ただ生きるだけでなく、豊かな充実した人生を、国や公的機関に頼ることなく、自立的に実現できるようにしなければなりません。そのためにも平均寿命だけではなく、さまざまな職業寿命や資産寿命を延ばすことが必要になります。

(吉村 やすのり)

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