はしか対策の遅れに憶う

全国ではしかの感染が広がっています。わが国は、国内土着のウイルスによる感染がない排除状態でしたが、今年の患者数は既に160人を超えています。旅行者が海外から持ち込んだ輸入感染を防げず、ワクチンの定期接種が1回だった30代を中心に感染が拡大しました。欧米では1980年代から2回接種を導入していますが、日本の実現は2006年までずれ込み、ワクチン行政の停滞が今も尾を引いています。国立感染症研究所によれば、今年は5月30日時点で既に164人に達しています。



はしかは、自然感染すれば十分な免疫ができ、再度罹患することはありません。自然感染が減る中で、はしかを防ぐにはワクチン接種が前提となります。日本では1978年に1回の定期接種が始まりましたが、1回では免疫が十分にできない人がおり、時間が経つと免疫がなくなることもあります。2回接種導入の遅れについては、1回でも患者数をある程度減らせていたため、国はワクチン対策の強化による予防効果を重視してこなかった点にあります。
はしか・風疹・おたふくかぜの3種混合ワクチン(MMRワクチン)接種の副作用を巡る訴訟で、国が敗訴したのを機に、1994年に予防接種法を改正しました。強制力があった予防接種が努力義務に格下げになりました。2005年にWHOの方針により、2006年から2回接種を開始しました。2回接種など対策の効果は大きく、日本はWHOからはしか排除の認定を受けましたが、今年のような感染拡大が続けば、認定取り消しの可能性もあります。
ワクチン行政の及び腰は尾を引いています。副作用で任意接種となったおたふくかぜワクチンも同様です。接種率が低迷し、子どもなどが感染し、重症化して2015~2016年に少なくとも359人が難聴になっています。副作用頻度は低いというデータが出ても行政の動きは鈍いままです。子宮頸がんワクチンの定期接種も厚生労働省による積極勧奨が中止されたままです。海外ではワクチン接種により子宮頸がんの罹患率が減少しているといったデータは数多く蓄積されるようになってきています。ワクチンの定期接種がされなかったことによって生ずる不利益に対して、誰が責任を取るのでしょうか。

(2018年6月8日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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