わが国の生殖医療の現状

体外受精や顕微授精、採卵などを含む生殖補助医療の件数で、日本は中国に次ぐ世界2位です。2021年は日本は約50万件で、米国は約41万件、英国は約7万5千件を上回っています。日本は体外受精を実施する医療機関が多く、費用負担が米英より少ないことなどが理由とみられます。しかし、出産数を治療件数で割った成功率は米国が22%、英国が24%に対し、日本は14%と10ポイントほど低くなっています。10年前の12%からほぼ横ばいです。
不妊治療を開始する年齢の遅さが一因です。米生殖医学会の学会誌で2016年に発表された論文では、体外受精で出産するために必要となる卵子の数は、30~34歳で12.2個なのに対し、41~42歳では40.2個、43~44歳では94.3個となります。日本は第三者からの卵子や精子の提供に関して法整備が遅れているほか、双子などの多胎児は出産時にリスクが高いことから、精子と卵子が受精した胚を一度に複数個、子宮に戻すことにも制限を設けています。こうした治療方針の違いに加え、不妊治療に至る年齢の遅さが米英に比べ顕著なことも、成功率の低さの要因となっています。

妊娠のしやすさは、卵子の年齢に関係します。卵子のもとになる細胞は、女性が産まれる前に母親の胎内でつくられ、それ以降は新たにつくられることはありません。年齢を重ねるにつれて正しく細胞分裂できずに染色体異常を起こしたり、発育が止まったりするケースが増え、妊娠率や出産率の低下につながります。
生殖可能年齢や不妊に関する教育が遅れています。日本の性教育は避妊は教えますが、不妊に関する教育は十分ではありません。文部科学省の中学校の学習指導要領は、受精・妊娠までを取り扱うものとし、妊娠の経過は取り扱わないと規定しています。英国の中学校の性教育は、結婚とは何かから始まり、男女の生殖能力や閉経の知識まで教えます。米国でも若年齢への性教育に力を入れています。

(2024年3月4日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

カテゴリー: what's new   パーマリンク

コメントは受け付けていません。