アジア主要都市の地盤沈下

アジアの都市で地盤沈下が進み、水害リスクが高まっています。異常気象や温暖化による海水面の上昇も相まって、アジアの全人口の約3割を占める12億人が、洪水などの危険と隣り合わせで生活しています。
米ロードアイランド大学大学院の研究チームによれば、2015~2020年の世界99都市の地盤沈下の速度を測定したところ、上位20都市のうち17都市がアジアでした。最大は中国・天津の年52㎜強で、ジャカルタの34㎜やバンコクの17㎜といった東南アジアの主要都市も軒並み上位に並んでいます。
地球温暖化の影響で、海水面が年間2㎜強上昇していますが、地盤沈下は5~20倍も速いペースで進んでいます。地盤沈下は急速な都市化を背景に、生活用水や工業用水として地下水が過剰にくみ取られることで起きます。アジアの大都市の多くはもともと沿岸や河口の低地にあり、年数㎝程度の沈下でも放置すれば浸水被害が拡大してしまいます。

 

水害への脆弱性は、政情不安を抱えた低所得国ほど高くなります。世界で水害リスクにさらされている人の数は18億人超にのぼり、そのうち7割にあたる約12億4,000万人は、南・東アジアに集中しています。経済損失も年々深刻化しています。世界気象機関によれば、洪水や豪雨など気象関連災害の被害額は2010~2019年に1兆3,810億ドル(約193兆円)と、2000~2009年に比べて5割近く増えています。

地盤沈下の抑制には政策的な手段が有効です。東京では高度経済成長期の1950~1970年代に世界的にも速いペースで沈下が進みました。年20㎝強の沈下を記録した地点もありましたが、法律や条例で地下水の取水制限を導入したことで沈下もほぼ抑えました。アジアが持続可能な成長を続けるためには、地盤沈下を防ぎ、水害に強い都市を作ることが急務です。

(2022年11月20日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

カテゴリー: what's new   パーマリンク

コメントは受け付けていません。