ワクチン政策の迷走

風疹が大流行の兆しを見せています。おたふく風邪、はしかを含む3つの感染症が、2020年の東京五輪・パラリンピックの頃に重なるとの最悪のシナリオも専門家の間でささやかれています。背景にはワクチン政策の迷走があり、国がワクチンの必要性を周知し普及策を講じていれば、流行を抑えられたはずです。
日本では現在、1歳と5~6歳の時の2回、はしか・風疹の混合ワクチン(MRワクチン)を定期接種として無料で受けられます。しかし、この形に落ち着くまでに多くの人が接種機会を逃し、流行のリスクを抱える結果となりました。おたふく風邪ワクチンは、今も定期接種化されていません。2006年にMRワクチンの接種を定期化しましたが、翌年に10~20代でははしかが流行しました。このため2008~2012年度の間、中学1年または高校3年の時にMRワクチンの2回目の定期接種を受けられるようにしました。
風疹ワクチンの定期接種は、1995年3月まで中学生の女子のみが対象でした。妊娠時に感染し、生まれてくる子が血液や心臓の重い病気を抱える先天性風疹症候群になるのを防ぐのが第一の狙いでした。厚生労働省は、2000年代に風疹対策を強化、幼児期に機会がなかった人にワクチン接種を促しました。2001~2003年に限り、10代から20代の男女を定期接種の対象に加えました。今年の風疹の流行では男性患者が女性の5倍近くもいます。年齢は30~50代が目立ち、子どものころに定期接種対象からはずれた世代にあたります。
1989年に、はしかの定期接種ではしか・風疹・おたふく風邪の3種混合ワクチン(MMRワクチン)を導入しました。生後12カ月以上72カ月未満の男女児が対象で、3つの感染症をまとめて防ごうとしました。ところが、おたふく風邪のワクチン原料によるとみられる副反応が予想以上に多く発生したことにより、1993年に定期接種が中止になりました。MMRワクチンは副反応問題が尾を引き、普及の見通しが立っていません。MMRワクチンを使っていないのは、先進国では日本のみです。米欧では副反応について理解を得て接種する流れが定着し、不安は少ないとされています。リスク情報などの透明性を高めてワクチンへの信頼を取り戻し、感染拡大を防ぐのは国際的な責務です。

(2018年11月16日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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