万能細胞の実用化に向けての臨床治験

臨床研究が中心だったあらゆる細胞・組織に分化する万能細胞で、実用化への臨床試験が一段と進んでいません。住友ファーマは、日本に続き2023年中に米国でパーキンソン病患者へのiPS細胞の治験を始めます。世界大手のノボノルディスクは、2023年にも同病への胚性幹細胞(ES細胞)での治験に着手します。
ヒトの組織や臓器を再生し、機能を復活させる治療技術を総称して再生医療と呼ばれます。手段は幅広く、遺伝子を改変した免疫細胞を投与する治療も含みます。重症火傷や患者への培養表皮など承認済みの製品はありますが、あらゆる細胞に変化できるES細胞やiPS細胞の実用化はまだです。
新薬候補をベースにした再生医療・遺伝子治療の世界市場は、2030年に6兆8千億円と10年間で約10倍に膨らみ、2040年には12兆円になると推計されています。しかし、安全性の確保など、実用化や普及への課題は多く、生きた万能細胞の質を均一にするのは困難を伴います。効率良く高品質の細胞を大量に培養し、安全確認の技術が求められます。
世界的な金融の引き締めもあり、2022年の世界での再生医療分野のバイオベンチャーへの投資は、2021年比で約4割減っています。これまで再生医療に対しては多額の投資がなされ、様々な臨床研究が開始されていますが、これまで明らかな治験成績の向上はみられず、臨床応用が進んでいるとは思われません。治験、承認、安定生産、研究開発への再投資というサイクルには到達しておりません。

(2023年3月24日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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