価格転嫁の遅れ

わが国では、企業の賃上げ原資の確保に欠かせない価格転嫁が遅れています。原材料価格が上昇する中で売値が据え置かれたり、値引きされたりすれば、企業はコスト削減のため人件費を切り詰めます。働く人の賃金が増えず、消費にお金がまわらず、経済全体が停滞してしまいます。商流の川上、川中などでの企業間の取引価格から消費者への販売価格まで、段階ごとに転嫁を進める必要があります。
米欧は、コスト増の大半を販売価格に反映しているのに、日本は5割しか転嫁できていません。米国は、昨年10月時点で川上の価格が前年同月比9%上がる一方、消費など最終需要も8%上がり、スムーズな価格転嫁が進んでいます。日本は川上が38%上がる中、最終需要は5%しか上がっていません。
長引くデフレで、日本の消費者は価格据え置きに慣れています。企業側には価格を上げれば売り上げが減るとの懸念が根強く、コスト増の局面で小売店や大手メーカーが価格を据え置こうとした場合、立場の弱い下請け企業にしわ寄せが行きがちな構図があります。構造的な賃上げによる経済の好循環の実現に向け、経済産業省は、価格交渉や転嫁に後ろ向きな企業名の公表に踏み切りました。デフレで染み付いた商習慣を転換できるかが試されています。

 

(2023年2月8日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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