出産に公的医療保険の適用は可能か

出産費用に公的医療保険を適用する検討がにわかに動きだしています。異次元の少子化対策の試案に盛り込まれており、自民党の議員連盟が、首相に保険適用と自己負担の無償化を求める提言を手渡しています。政府は2026年度の導入を視野に可否を判断する方針です。
出産の保険適用をめぐっては、政府・与党内で動きが相次いでいます。自民が3月にまとめた少子化対策の提言に盛り込まれたほか、菅義偉前首相も必要性を主張しています。政府が3月末に公表した少子化対策の試案にも急遽検討方針が入る形となりました。出産を保険適用にするべきだという議論は、これまで度々浮上してきていました。しかし、厚生労働省は、正常(自然)出産は疾病や怪我ではないとの考えを変えず、後ろ向きの立場を長年貫き続けてきました。首相も、国会で野党が保険適用を求めるのに対し、保険適用は慎重に考える必要があるなどと答弁してきました。
現在は、出産費用やサービス内容が地域や施設ごとに異なり、妊婦が自由に選択するのが原則となっています。保険適用されると、分娩サービスの内容が標準化され、価格が一律に設定されることになります。出産費用は年々高騰しています。4月からは妊婦の経済的負担を軽減するため、出産育児一時金が原則42万円から50万円に上げられました。それでも東京都では、費用が安い公立病院で平均56万5千円が必要で、不足分が生じます。このため妊産婦のさらなる負担軽減に向け、無償化と組み合わせた保険適用を求める声があがってきています。価格が一律になることで、医療機関側の便乗値上げを防ぐ効果も指摘されています。
保険適用による診療報酬が、経営に必要な費用と乖離すれば、多くの産科が廃業に追い込まれかねません。わが国においては、分娩の半数以上が産院クリニックで行われており、近隣にクリニックがなくなり、妊産婦が不利益を被る可能性が出てきます。陣痛から30分以内に対応できる分娩施設がなくなり、出産難民が出ることも想定されます。また自由診療では、妊産婦のニーズに応えられる利点があります。
厚生労働省は、来年4月から医療機関ごとの出産にかかる費用やサービス内容を一覧で見える化し、その効果を検証した上で、2026年度の診療報酬改定を目途に保険適用の導入の可否を検討する方針としています。

(2023年4月12日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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