労働生産性向上への挑戦

2022年の1人当たり名目GDPは、OECD加盟国中21位とG7で最低となりました。また日本生産性本部の労働生産性の国際比較2023では、2022年の1人当たりの労働生産性は、OECD加盟国中31位です。円安が要因とはいえ、GDP全体でも人口が日本より3割以上少ないドイツに抜かれ、4位に転落しました。
長年にわたる1人当たりのGDPや生産性の低迷は、この間アベノミクスに代表される財政・金融政策頼みの経済運営により、生産性向上のための構造改革が置き去りにされてきたことによると思われます。構造改革を労働強化とする批判も生産性向上が進まない一因ですが、新技術の習得に努めなければ経済的な豊かさどころか安全性も維持できなくなります。
イノベーション不足の国では、モノへの投資も海外へ向かいます。従来型ビジネスで稼ぐには、日本企業は低金利で調達し、収益性の高い海外で投資した方が有利です。2022年から欧米が金利を引き上げたのに対し、日本はゼロ金利を維持しており、資金の流出と円安を招いています。良質のヒト、モノ、カネの流出はさらなる貧困化を招きます。人々は一層政府への依存度を高めることになりますが、政府自身に経済を活性化する機能はありません。
氷河期世代以降は成長期の体験が乏しく、停滞する日本経済だけを見てきました。彼らにとって、日本は経済活力や科学技術の面で世界的に優れた国ではありません。こうした世代には、経済的豊かさを優先した世代のシナリオは魅力的ではなく、生活の豊かさまで包含したビジョンが必要となります。
生産性向上のための経済学的、政策的なアプローチは、パーサ・ダスグプタ英ケンブリッジ大学名誉教授が、生物多様性の経済学で示した資本アプローチです。資本アプローチは、人々の生活を豊かにするサービスを市場経済から供給されるサービスに限らず、環境を含めた市場外のサービスにまで拡張して捉えています。それらを提供する基盤となる民間資本、社会インフラ、自然資本、人的資本などの組み合わせを政策目標として考えています。
このアプローチが定着するには時間がかかります。しかし、これまで経済的豊かさの指標として君臨してきたGDPも、将来はより包括的な豊かさを取り入れたものへと変化していきます。GDPや生産性の低迷をしっかり受け止めることは大切ですが、単なる過去への回帰ではない豊かさへの戦略を練る必要があります。

(2024年2月21日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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