受精卵のゲノム編集報道に憶う

受精卵にゲノム編集を行い、双子が生まれたとの報道がみられました。中国の研究者がエイズウイルス(HIV)に感染した男性の精子を使ってできた受精卵にゲノム編集を施し、ウイルスが細胞に入らないようにし、女性の子宮に受精卵を移植し、双子の女児が生まれたと報道されています。論文での報告ではないため、真偽はわかりませんが、事実なら現時点では受け入れられない研究と思われます。HIVの子どもへの感染は、精子の洗浄により感染を防ぐ方法があるため、安全面で課題があるゲノム編集をする必要はありません。また施設の倫理委員会で十分に計画が審査されていないことも問題です。

人間の受精卵の遺伝子を操作した基礎研究が初めて明らかになって、約3年半が経過しています。将来技術的に課題が解決したら、厳しい規制のもとで条件を限って認めるという国際的な流れになることも考えられます。各国とも厳しい法規制が前提であり、基礎研究でも政府機関の承認がないとできない国もあります。フランスやドイツなどは、遺伝子を改変した受精卵や精子、卵子で妊娠、出産することを法律で禁じています。アメリカは法律はありませんが、実質的に禁止です。遺伝子を改変する臨床試験の審査を、政府当局が予算を使って行うことを禁じています。一方、中国は、妊娠や出産を目的とした受精卵などの遺伝子改変を指針で禁じています。違反すると研究資格停止や罰金、失職の可能性があります。

昨年の米科学アカデミーなどの報告書は、重い遺伝病を治す目的に限って受精卵のゲノム編集を容認しています。今夏、英国の生命倫理評議会がまとめた報告書は、生まれる子の福祉にかなうなどの条件を満たせば、遺伝子の改変を認めています。わが国おいては、政府の有識者会議が3月にまとめた報告書は、医療提供目的だと指針の規制対象にならない点を挙げ、法律が必要だと指摘しています。一方で国民の倫理観が多様なことや法整備は時間がかかるため、まずは研究について指針で対応し、状況をみて検討する必要があるとしています。現在、基礎研究については、厚生労働省と文部科学省が指針を作成中です。

(2018年11月28日 朝日新聞)(2018年11月29日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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