国内での卵子提供による体外受精

卵子提供による体外受精については、わが国では法律で禁止されておりませんが、実施するためのルールも長年整備されてこなかったため、JISARTのような限られた生殖医療のクリニックで、独自のガイドラインの下で極めて限定的に実施されてきました。これまでは、卵子提供のためのエージェントを介して、海外で卵子提供を受けて妊娠するケースがほとんどでした。
海外での卵子提供では、最低2回の渡航が必要になり、事前の検査や最終調整も含めて滞在が長くなります。またコロナ禍で渡航が難しくなったことにより、国内での卵子提供が今や現実的な選択肢となっています。先日のNHKのクローズアップ現代の報道によれば、コロナ禍以降、少なくとも340人が国内でドナーの卵子の提供を受け、妊娠したとされています。クリニックは、当初はコロナで渡航が困難となり仕方がないと引き受けておりましたが、大きな問題が生じないことを知り、経済的な効果が無視できないこと、多くの医療機関で実施していることもあり、瞬く間に広がってしまっています。
国内のエージェントやクライアントカップルにとっても、経済的負担の軽減、利便性を考えると、国内でドナーが無理なく見つかるようであれば、国内実施に傾くようになるのは自明の理です。エージェントは、国内でのドナーのリクルートも盛んに行っています。卵子提供の場合は精子提供と異なり、ドナーに対する身体的リスクや物理的な拘束が必要となることから、金銭の授受が発生します。番組では、9回も卵子提供を行ったドナーも紹介されていました。一回の卵子の提供で、70万円前後が支払われるとのことでした。卵子提供に伴う金銭の授受、商業主義的な生殖医療については、何らかの規制も必要になってきます。
卵子の提供による妊娠では、クライアントの女性が高齢なことが多く、様々な妊娠合併症を起こすことも知られています。これまでは実質的に行われてこなかった卵子提供による体外受精が、国内で多数実施される現状を考えれば、ドナーのリクルート、実施機関の認定や斡旋機関などについてのガイドラインの制定が望まれるところです。

(吉村 やすのり)

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