多死社会という現実-Ⅰ

死亡場所の変遷
1952年には自宅死が81.3%で、医療機関(病院・診療所)死は12.4%でした。自宅での看取り、大往生が普通でした。その後、経済成長の歩みと共に病院死が増えました。ベッドを増やして病院を開設する中で、自宅死は下がり続け、医療機関死が急ピッチで伸びました。1976年には両者の比率は逆転し、2005年になると医療機関死は82.4%に達し、自宅死は12.2%と最低になりました。医療機関死は、大多数は病院死で、国民の5人のうち4人は病院死でした。
欧米諸国の病院死の比率は、英国で49.1%、米国は43.0%、スウェーデンは42.0%と軒並み50%を割っています。中でも際立って少ないのはオランダの29.1%です。介護保険を世界で初めて導入したオランダは、在宅医療と在宅介護を充実させました。要介護状態になっても自宅か自宅並みの集合住宅で暮らすという考え方が定着しています。
しかし、その日本でも変化が起き始めています。コロナ禍で入院忌避や早期退院が出ていることも影響していますが、2006年から病院死比率が低下し始めています。2021年には67.4%まで落ちています。この15年の間に15.0ポイントも下がっています。このまま下がり続けると、15年先には欧米並みの50%前後にたどり着きそうです。その低下は、自宅死が増えたからではなく、2005年からの16年間で5ポイントしか増えていません。増えたのは施設での死です。特別養護老人ホームや有料老人ホームなどの高齢者施設での死亡が、16年間で10.7ポイント増えています。後押ししたのは2000年4月にスタートした介護保険制度です。
第二の自宅とも言える老人ホームでの死亡と自宅死を合わせた死を在宅死と定義することもできます。高率の在宅死を支えているのは、都市部を中心に充実してきた在宅医療の活動が大きく関与しています。老人ホームでの入居生活が長くなると、本人は最期までここでという気持ちになり、家族も同意して入院死を選ばなくなっていきます。

(Wedge vol.35 No.3 2023)
(吉村 やすのり)

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