多死社会という現実-Ⅱ

死亡原因の変化
近年、死亡原因にも大きな変化が見られます。訪問診療医や訪問看護師が来訪する自宅死では、延命治療を求められないことが多く、自然な死、即ち老衰死となります。施設死でも同様です。日本人の死因分布を見ると、がんと心疾患、脳血管疾患が3大死因とされ続け半数を上回っていました。しかし、近年、老衰死が急増しています。
人口動態統計によれば、老衰死は1950年代から減少し始め、2000年を底に、翌年に前年を上回ってから増勢に転じました。2000年の老衰死は2万1,209人で全体のわずか2.2%でしたが、2017年には10万人を超えました。死因順位も2018年には脳血管疾患を追い抜いて第3位に浮上しています。
コロナ第4波、第5波に見舞われた2021年の全死者は、前年より6万7,101人増えて143万9,856人に達しています。死因別増減数を見ると、肺炎死が5,256人も減少していますが、誤嚥性肺炎、がん、脳血管疾患などはいずれも増えています。最も多いとみられたコロナ死は1万3,300人で第2位でした。増加数第1位は老衰死です。2021年の老衰死は15万2,027人で、コロナ死を6,000人以上上回り、前年から1万9,587人も増えています。死因全体の10.6%に達し、第2位の心疾患の14.9%に近づきつつあります。
死亡診断書の死因の多くはがんや心疾患、肺炎など病名が記されます。死亡診断書には病名を書くのが当たり前で、病名を突き止めるのが医師の業務であり、老衰は病名ではないとされてきました。看取りケアがきちんとできた結果として、老衰と診断名がつくと家族も介護職も受け入れやすくなります。病気で命を奪われたのではなく、長く生きた自然の摂理の結果として死が訪れ、それを老衰と診断することは遺族へのねぎらいの意味もあります。死亡者の85%が70歳以上で、64%が80歳以上という日本の死の現実からすると、大往生としての死を自然に受け入れることはもはや自然の摂理です。

(Wedge vol.35 No.3 2023)
(吉村 やすのり)

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