子育てが楽しいと思える社会の形成

未婚者が希望する子ども数は、年々減少してきています。現代の若い世代は、あえて子どもを持ちたいとは考えていません。2023年の出生数は75万人と、8年連続で過去最少を更新しています。費用対効果を重視する現代の若者が、子育てにかかるコストや親になることで抱えるリスクを考え、子育てを回避しようとするのは合理的な選択とも言えます。
共働きが主流になったにもかかわらず、子育ては母親という性別役割分担意識は根強く残っています。女性は子どもを産むと仕事を続けることが難しくなったり、収入が低くなったりし、社会的・経済的に不利な状況に置かれて苦しんでいます。長時間働く男性を前提とした今の働き方は、仕事と家庭生活の両立ができず、子育てしながら必死に働く職場の先輩を見て、若い人たちが自分にはとてもできそうにないと思うのは、不思議なことではありません。子育てには楽しさや喜びも多いのに、それが全然伝わらず、不安が不安を煽る状況です。
育児をし、教育費を負担し、成人後も子どもの責任は親がとる。全てを抱え込めば、家族は疲弊する子育てを家族内で完結せず、もっと社会で負担を分かち合うべきです。結婚や出産をしない自由を保障するのは当然としても、子どもは将来の社会を支える存在だという共通認識を持つことが大切です。子どもがほしいと思いながら育てる不安を感じている層が、子どもがいても何とかなると思えるように、社会が変わる必要があります。
少子化の背景に孤立した子育ての現状、子育ての実情を知らない人々が子連れに厳しい目を向けるなど、不寛容な雰囲気があります。子どもの声が騒音だから保育園の新設に反対するといった社会の圧力が、子どもや親に居心地の悪い思いをさせています。世代間の意識の差を縮める努力も必要です。
今の社会は、生産年齢人口(15~64歳)にとって快適な社会と言えます。リスクが管理され、安全で効率的ですが、そんな社会が持続可能とは思えません。人はやがて老います。リスクを許容でき、子どもが生きやすい社会は、高齢者が生きやすい社会でもあります。少子化と同時に高齢化も進む日本で、秩序と効率を追求した、子どもを持たない生産年齢人口中心の社会のままで良いとは言えません。子育てを楽しいと思える社会への第一歩は、母親の孤立を防ぐことです。孤独な育児の解消こそが、少子化を食い止めるために必須です。

(2024年3月23日 読売新聞)
(吉村 やすのり)

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