少子化対策 ― 失われた30年 ―

子どもの減少に歯止めがかかりません。1989年の合計特殊出生率が1.57となり、1966年の丙午の1.58を下回ったことにより、国ははじめて1.57ショックと呼び、1990年代より、エンゼルプラン、男女共同参画社会基本法、少子化対策基本法など様々な法案を成立させ、少子化対策に乗り出しました。以降、少子化対策担当大臣就任、子ども・子育て支援新制度が開始されましたが、この30年、実効性のある少子化対策となり得ていません。2019年には、少子化社会対策白書にて出生数が90万人を切り86万ショックと呼ぶべき状況に陥っています。
バブル経済崩壊後の日本の失われた30年は、人口の停滞・減少期とほぼ重なります。人口減少が経済成長に影響することは知られています。急速な少子化は、経済の活力を奪い、社会保障制度の維持を危うくします。政府と自治体、経済界は人口危機を直視し、子どもを持ちたいという若い世代の思いに応える政策を急がねばなりません。
約20年前の2004年の少子化社会対策白書では少子化の原因分析がなされ、晩婚化・未婚化の進展や、経済的に不安定な若者の増大、育児教育コストの負担増などが挙げられています。対策についても、児童手当・税控除などの経済支援の充実、育児休業の取得促進などが並んでいます。現時点でも掲げられる対策がほぼ同じです。少子化対策に特効薬はなく、ひとつひとつ政策の実効性を高めるしかありません。高齢者の社会保障を効率化し、子どものための予算を確保することが必要になります。
まずは、若者の雇用を安定させ、子育て世帯の経済的な負担を軽くしなければなりません。育児と仕事を両立できる環境づくりも道半ばです。男性の育休取得率は依然低く、請負などの形で働く人や、雇用保険の加入要件を満たさない非正規雇用の人が制度を利用できていません。処遇改善や正社員転換、デジタル分野への職業訓練などで、安定した経済規模を築けるよう支援することが大切です。男性の育児も大きなカギとなります。父親の家事・育児が多いほど第2子以降が生まれる傾向にあり、リモートワークの定着や長時間労働の見直しは、仕事と家庭の両立に資すると思われます。
政府が初めて子育て支援の総合計画であるエンゼルプランを打ち出したのは、30年近く前のことです。しかし、関連予算は今日に至るまで、先進諸国で最低レベルが続いています。財源問題と向き合うことから逃げてきたことが今日の事態を招いたことは明らかです。一方で高齢者向け給付は増え続けています。この危機的な少子化を食い止めるためには、若い世代や子どもたちを重視する政策に取り組むメッセージを打ち出すことが必要となります。少子化は確実に今後も続き、わが国の社会・経済の活力を奪います。その現実を見据えた具体的な行動が示されるべきです。

(吉村 やすのり)

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