少子化対策の財源としての公的医療保険

公的医療保険とは、国が財政運営や給付の対象に関与する健康保険制度です。日本はすべての国民が会社員や公務員、自営業などの属性ごとに健康保険に加入する国民皆保険となっています。病院で治療や診察を受けた際の自己負担額は年齢や所得によって異なります。義務教育への就学前は2割、就学後から69歳までは3割、70歳から74歳までは2割、75歳以上は原則1割で、所得に応じて最大3割負担します。
大手企業などの会社員が入るのが健康保険組合で、勤務先の企業などが設立しています。中小企業を中心とする会社員は、全国健康保険協会が運営する協会けんぽに加入します。自営業者などは国民健康保険に、公務員やその家族は共済組合に入ります。75歳以上には後期高齢者医療制度があります。

政府は少子化対策の財源確保策として公的医療保険や介護保険の保険料への上乗せを軸とする方針です。医療保険の場合、年金保険料と異なり、高齢者を含む幅広い年齢層が支払います。企業も折半で負担するので、社会全体で支えるとの理念には合致します。所得に応じた負担が原則で、年金暮らしの高齢者らの負担は抑えられます。多くの預貯金を持つ高齢者らより、生活の苦しい現役世代の方が、保険料が高くなるといった現象が起きています。
病気や怪我に備える医療保険の仕組みを、少子化対策に使うことは流用となり、受益と負担の対応関係も曖昧になってしまいます。現役世代に負担が集中する社会保険料の上昇は、可処分所得の伸び悩みの一因となるとの指摘もあります。産業界で盛り上がりつつある大幅賃上げの効果を打ち消しかねない状況になります。

(2023年5月18日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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