梅毒の増加

新型コロナウイルスの流行下、他の多くの感染症で患者が減る一方、性感染症である梅毒で急増しています。2022年の国内の梅毒患者数は、約1万3,000人と2021年の1.6倍になり、過去最多となっています。梅毒の流行は周期的にやってくるといわれていますが、理由はよく分かっていません。日本だけでなく、米欧など世界でコロナ前から梅毒の流行が始まっていました。日本での増加は世界的な流行の中の一部と思われます。
女性の梅毒患者は20~30代が多いのに対し、男性は20~50代に満遍なくみられます。梅毒に限らず、クラミジアなど性感染症全般で同じ傾向にあります。かつては男性同性愛者の間での流行にとどまり、感染者数が限られていました。しかし、ある時点から女性にも感染が広がり、男女間で流行が急拡大している状況です。
梅毒は、梅毒トレポネーマというらせん形の細菌による感染症です。抗菌薬のペニシリンで治療できますが、自然に治ることはありません。国内では飲み薬が長らく使われてきましたが、2021年には注射薬が使えるようになっています。飲み薬は4週間連続で続けるのが基本です。感染は接触感染が大半です。感染している部位が、性交渉などで他人と濃厚に接触すれば感染します。握手するぐらいの接触では感染しません。
感染から1年間ほどの早期梅毒の時期に、接触によって他人にうつる可能性があります。1年以上の後期梅毒は感染力がなくなります。しかし、梅毒に感染した妊婦から胎児にうつる母子感染は、後期梅毒になっても起こります。母子感染は死産や流産の原因になり、生まれてきた赤ちゃんにも障害が出ることがあります。母子感染による先天梅毒は、2012年頃まで年に数人程度でしたが、近年は20人程度まで増えています。
梅毒は、ペニシリンの服用で治る病気ですが、先天梅毒は完全には防げません。妊婦が治療を受けていた場合でも14%で母子感染が起こっています。無治療では40%に母子感染すると言われていますが、薬を使ってもゼロにできません。妊娠しうる女性で梅毒の心当たりがある人には、妊娠前に確認することが大切です。検査で陽性だった場合には妊娠の前にしっかり治療を受けることが大切です。コンドームの着用によって梅毒の感染リスクを下げられるますが、100%の予防にはなりません。

 

(2023年2月7日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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