異次元の少子化対策

近年の出生数は減少の一途を辿り、昨年は80万人を割り込む見通しです。第1次ベビーブーム期の1949年の270万人の3分の1、第2次ベビーブーム期の1979年の209万人の4割に満たない状況です。OECDの調査によれば、2017年の国内総生産に対する子ども・子育て支援に関わる日本の公的支出の割合は1.79%で、OECD平均の2.34%を下回っています。
岸田文雄総理が年頭に打ち出した異次元の少子化対策が波紋を呼んでいます。①児童手当を中心とした経済支援の拡充、②学童や病児保育を含む幼児・保育サービスの充実、③キャリアと育児の両立支援に向けた働き方改革や育児休業などの制度の拡充の3分野で、必要な施策を検討することにしています。経済的支援の柱として、児童手当を前面に打ち出しています。幅広く子育て世帯に現金を配る児童手当には巨額の費用がかかります。
国立社会保障・人口問題研究所によれば、日本の2020年度の子育て支援を中心とした家族向け支出は10.7兆円にのぼっています。児童手当や出産手当金といった現金給付のほか、保育所の施設整備や放課後児童クラブへの助成など現物給付からなっています。内訳は現金給付が4兆円、現物給付が6.7兆円で、現金給付が全体に占める比率は4割未満にとどまっています。
2017年度のGDP比でみた税制による支援を除く家族向け支出のうち、現金給付が占める割合は、カナダが86%、イタリアが68%、英国が65%です。日本の現金給付は他の先進国に比べ見劣りしています。フランスは概ね現金と現物が半々ですが、子育て予算の規模そのものが大きくなっています。OECD全体で見れば、集計可能な加盟37カ国中21カ国で現金給付が上回っています。米国は子育て分野への予算配分は少なく、自助に委ねる傾向があると言えます。
わが国は、これまで幼児教育の無償化や待機児童問題の解消に向けた保育施設の増設などに注力をしてきました。家族向け支出は2015年の7.6兆円と比べ、5年でおよそ4割増えています。現物によるサポートが先行し、現金給付は縮小傾向にあります。2020年度の日本の子育て関連予算10.7兆円は対GDPでみると、2.0%に相当します。
予算の倍増が実現すれば、総額は20兆円程度の水準に膨らみ、GDP比で45弱と先進国でトップ級になります。欧州の主要国並みの水準まで現金給付を拡充できれば、出生率は回復軌道に乗ると思われます。

(2023年1月13日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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