社会保険における負担と受益のバランス

政府が検討する少子化対策の拡充では、保険料を引き上げて財源にする案が浮かんでいます。現役世代の負担余地が少なくなれば、財源として見込みにくくなります。高齢者の給付と負担を見直し、子育て世帯に分配するといった視点も必要となります。
健康保険組合連合会は、2023年度の健康保険の平均料率が9.27%になる見通しだと発表しています。介護と年金をあわせた保険料率は29.35%と、過去最高の水準となっています。高齢者医療への拠出金は増え続ける公算で、世代間で負担と給付のバランスはますます崩れてしまいます。
保険料は年齢にかかわらず負担し、全世代で受益があります。現役世代でも医療機関での窓口負担は3割で済みます。厚生年金の保険料を多く払うほど将来受け取る金額は増えます。問題は負担と受益のバランスです。今の社会保障制度の構造は、負担は現役世代、給付は高齢者に偏っています。高齢者より所得の高い現役世代が払う保険料の多くが、高齢者への仕送りに充てられています。
1990年は、65歳以上の高齢者1人を5人ほどの20~64歳で支えていました。直近では2人を割り込み、将来的には1人に近づいています。働く高齢者を増やして制度の担い手を手厚くしなければ、現役世代が背負う重みはさらに増すことになります。少子化対策の財源で現役世代の追加負担が重くなりすぎると、子育て支援と矛盾してしまいます。出生率が改善すれば支え手が増え、社会保障制度の持続性が高まるだけに、社会全体での取り組みが必須となります。

(2023年4月21日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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