脱少子化社会への道

子どもを産むか、産まないか、そんな個人の選択には、社会の制度や価値観が大きな影響を与えます。世界で人口減少にあらがう国の多くは、多様な生き方を認め、世の中全体で助け合う寛容な社会をつくろうとしています。
デンマークの人口統計では、家族の形を37種類に分類しています。子どもからみた家族形態は、夫婦同居・夫の連れ子同居・妻の連れ子同居など多様です。配偶関係も異性同士の法律婚だけでなく、同性法律婚・登録パートナーシップなど5種類もあります。ライフスタイルの多様化に対応しつつ、未来を担う子どもの視点で支援制度が見直されてきています。

多様な家族を認める社会は、親子のあり方にも寛容です。伝統的家族主義が弱い国ほど、出生率が高くなっています。家族の多様化を示す1つの指標は、結婚していない男女から産まれた婚外子の割合です。事実婚やシングルマザーなど様々な親子がいますが、婚外子の割合が高いほど、家族のかたちにかかわらず子どもを産めると言えます。低いほど伝統的な家族観に基づき、結婚と出産の結びつきが強くなります。

デンマークやフランスの婚外子割合は、1960年に10%を下回っていましたが、2017年時点で5割を超しています。ほとんどの行政サービスは法律婚と男女の同居を区別せず、出生率も1.7超です。日本の婚外子割合は2%強と韓国と並び最も低い水準です。伝統的家族観から多様化が進まず、広がったのは未婚化でした。日本で配偶者がいない50歳代は3割を超しています。出生率は回復せず、2021年の人口は64万人減少しました。
性的少数者の国際支援組織ILGAによれば、北欧や米英、ドイツなど多くの先進国が同性カップルの養子受け入れを認めています。日本は、G7で唯一同性パートナーシップを認める国の制度がなく、特別養子縁組も婚姻関係のある男女に限られています。同性婚を認めれば少子化がすぐ改善するわけではありませんが、誰もが住みやすい社会は成長の源です。
子どもを産みにくくしているのは、婚姻だけではありません。家事の負担を巡る男女間の不平等、キャリアと子育ての両立、多様な生き方を抑圧する風潮など、複合的な要因が関与しています。当たり前を問い直し、家族観と制度を考え直さなければ、深刻な少子化から抜け出すヒントはつかめません。

(2022年11月22日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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