超音波による手術困難がんの治療

膵臓がんの治療に関しては、国立がん研究センターによれば、診断から5年後の患者の生存率は12.7%にとどまっています。2020年は3万7千人超が亡くなっています。肺や大腸、胃のがんに次いで4番目に多くなっています。膵臓は周囲を他の臓器に囲まれているため、放射線での治療も難しいとされています。
手術できない膵臓がんを対象に超音波治療の臨床試験が開始されています。ソニア・セラピューティクスは、超音波を一点に集中して照射する集束超音波の治療装置を初めて開発しました。超音波でがん細胞を死滅させる仕組みは、太陽の光を虫眼鏡で集めて紙を焦がすのと似ています。専用の装置で超音波を患部に集中させて、発生する熱でがん細胞を壊します。超音波が集中していない周囲の組織に悪影響はほぼ与えません。
超音波はヒトの耳に聞こえない周波数の高い音で、医療現場では体内を調べるエコー検査で活用されています。体への負担が軽く、副作用が少なく、放射線のように被曝がなく、繰り返し治療できます。日帰りも可能で、コスト面でも放射線に比べて装置価格は3分の1程度で済みます。遮蔽が必要な放射線のように専用の場所を設ける必要がありません。

世界で実施されている超音波を使った治療の臨床試験の対象疾患は、2012年は10種類に満たなかったのですが、2021年には約80種類になっています。米国では、骨転移や難病のパーキンソン病、前立腺肥大症、前立腺がん、子宮筋腫などで既に承認を得ています。わが国でも、パーキンソン病や本態性振戦などの手の震えや子宮筋腫の治療に使用されています。
がんの領域では膵臓のほか胃や乳房、腎臓など様々な部位で臨床研究や治験が行われています。2021年の時点でがん治療研究の96%が膵臓、肝臓、前立腺で占めています。特に膵臓や肝臓のがんは生存率が低く、新たな治療法が求められています。

 

(2023年4月11日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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