高校生像の40年間の変化

高校生は、この40年間でコツコツ努力して仲間と協調し、進路を決める時に親や教師の意見を十分聞こうとする態度も強くなっています。安定志向で学校に適応する良い生徒の増加が顕著です。大学進学希望者に限ってみてみると、学生生活を楽しむや自分の進路や生活を考えるための時間を選択する生徒が減少し、希望する職業に必要や進学する方が就職に有利を選択する生徒が増えています。
かつて発達心理学者のE・H・エリクソンは、アイデンティティーの確立のために試行錯誤を行う青年期を、モラトリアムと位置づけています。高校から大学などで学ぶ時期はまさにモラトリアムであり、試行錯誤を繰り返して自分の進む道を定めるための猶予期間という意義も持っています。
高校生たちの思考は職業や就職に傾き、教養を身につける社会に出る前の猶予期間を過ごすという意識が後退しています。モラトリアム志向の低下は、早期に自己が確立された結果と喜ぶこともできますが、家庭の厳しい経済状況や高校卒業前に奨学金の借り入れが決まる環境下では、早期に目標を定めてまじめに勉強すべきであるという義務感の反映のようにも見えます。
目標を早くに決めて目的合理的に進学するだけだと、大学教育の意義は半減してしまいます。目的を持つと同時に進学後に多様な経験をして自分を見つめ直す機会だと本人が意識すること、また教師や親がそうしたゆとりを持たせてやることも、今の時代には大切かもしれません。

(2024年2月20日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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