高齢者の金融資産

国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口によれば、75歳以上人口は2015年の約1,630万人(全人口の12.8%)から、2040年には約2,240万人(同20.2%)に増加します。総務省の全国消費実態調査から推計すると、年齢別にみた平均金融資産は高齢者ほど大きく、75歳以上でもあまり取り崩されていません。また高齢者ほど金融資産に占める株式のなどのリスク性資産の構成比が高くなっています。
現在の年齢別の平均金融資産から年齢別の金融資産の保有割合の構成を推計すると、2015年時点では、75歳以上の保有する金融資産が、全金融資産に占める割合は22%にのぼっています。年齢別の平均金融資産が変化しないと仮定すると、75歳以上が保有する金融資産の割合は、2040年には30%に上昇します。高齢者の保有する金融資産とリスク性資産が増え、人口高齢化以上に金融資産の高齢化が進みます。
厚生労働省によると、認知症患者数は2015年時点で約525万人に達しています。2040年頃には800万~950万人になると推計され、75歳以上が大半を占めています。現時点で75歳以上の3割程度が認知症を患っており、将来には75歳以上の中でもより高齢の人が増えることから、35~40%程度が認知症になってしまいます。すなわち、全金融資産の10~12%程度が、認知症高齢者により保有されることになってしまいます。認知症患者が保有する金融資産は、100兆円にも達します。
仮に認知症に至らなくても、人間の判断能力を左右する認知機能は加齢とともに低下し、複雑な金融商品の理解と投資決定は次第に難しくなってきます。金融資産の高齢化に伴い、金融老年学が注目されるようになってきています。金融老年学は、老年学、精神・神経医学、認知科学と経済学を組み合わせたもので、社会経済に取り入れられるための実践的・複合研究領域です。
駒村康平慶應義塾大学教授は、今後の高齢社会では、認知機能の低下が市場に与える影響という新しい問題が深刻化するため、金融老年学の研究を活用した社会経済システムの見直しが不可欠であると述べています。高齢者の経済行動を分析するには、加齢に伴う認知機能の低下も考慮する必要があります。

(2018年8月27日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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